2024 04,30 18:44 |
|
× [PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。 |
|
2009 08,27 08:07 |
|
まだ『神の守り人』までしか読んでいないが、
現時点での感想を書いておこう。 この作品はすごい。 ジャンルで言えばファンタジー、 それも、完全な異世界を一から創造した ハイ・ファンタジーということになるのだろうが、 今まで日本で作られていたような、 あるいは日本人が「ファンタジー」と聞いて思い浮かべるような 華やかで優雅で美しい「妖精の国」のような世界とは 一線を画している。 その世界はあくまでも土臭く、華やかさとは無縁だ。 いわゆるファンタジーらしい要素としては、 人間達の住む世界と重なる、精霊や神の住む異界 (ナユグやノユークと呼ばれる)が存在するが、 それらはあくまでも人間達の生活に直接に関わる、 極めて現世的な物である。 『守り人シリーズ』は、いわゆる続き物ではなく、 各タイトルごとに話が完結する、いわば「連作」ものだ。 そして特徴的なのは、ひとつの話ごとにひとつの国が舞台となり、 その国の成り立ちから政治体制、民族のあり方や文化までが 詳細に語られることだ。 各国の詳細な描写こそがこのシリーズの大きな魅力、と言っても 過言ではないだろう。 それはファンタジーと言うより、まるで歴史の授業のようだ。 歴史の授業で僕らは教わる。 「ローマ帝国は遥か遠くまで遠征に行き、 そこに戦争を仕掛けて植民地にした」 「エジプトは王を神の化身として祭り、 死後にはその墓として巨大なピラミッドを建てたと言われている」 「バラモン教では神官を最高位とした厳格な身分制度が作られていた」 「中国の都市にはシルクロードを通って様々な民族が入り交じり、 複雑な様相を呈していた」――。 だがこのような授業では、 本当にそこに生きていた人がいること、 そこにひとりひとりの人生があったことなど、 実感どころか、想像すらできない。 「守り人」のすごいところは、 そういった様々な異文化を疑似体験できるところにあるだろう。 旅の凄腕の用心棒であるバルサが各地を渡り歩きながら、 それぞれの国で重要な人物を護り、あるいは自らを護るために戦う。 それが「守り人」シリーズに共通するあらすじだ。 大抵の場合、王族などの権力者が登場し、 国を支える権力構造や問題点などが明らかにされる。 民族問題、宗教の問題、貧富の差――それらは創作だというのに、 いや創作であるからこそ、鮮やかに赤裸々に描き出される。 重要なのは、バルサは「正義」ではないということだ。 国の陰にある、人間の黒い部分を目の当たりにして、 バルサは正義の味方としてそれを糺すようなことはしないし、 彼女にそんな力はない。 バルサの目的はあくまで生きることだ。 そう、この作品は「生きること」にこだわるものだと言える。 登場人物達は、僕ら現代に生きる人間には及びも付かないような、 過酷な状況下に生きている。 そして大抵の場合、命を狙われることになる。 あまりに巨大な困難に、 「生きること」そのものを放棄しかける登場人物に対し、 バルサは決してあきらめず、とにかく生きることを選択する。 おそらく、守り人のテーマはそこにある。 厳しい状況がある。絶望するのは簡単だが、それではそこで終わりだ。 だがその中であきらめずに「生きること」を選択する。 それは困難だが、それでもその先には『何か』がある。 言葉にしてしまうとそれだけのこと。 でもそれが本当の実感を伴って訴えかけてくる作品は、 なかなかないのではないだろうか。 おそらくは文化人類学に裏打ちされた、 この設定力の高さがうらやましくて仕方ない。 PR |
|
コメント |
コメント投稿 |
|
trackback |
トラックバックURL |
忍者ブログ [PR] |