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2008 05,08 21:54 |
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村上春樹について書こうと思う。
ちょうど今僕が彼の長編「ねじまき鳥クロニクル」を読んでいる途中で(現在第2巻の半分まで読み進めている。全3巻の、ちょうど半分だ)、彼の作品を読みながら僕が感じている、日常から乖離したような不思議な感覚を記録して――そしてもし可能なら誰かと共有して――みたいからだ。 けれど、この考察は極めて不確かで頼りないものになるということを、あらかじめ断っておかなければならないだろう。それは、僕が彼について考える時に決まって感じる思いでもある。今までに僕は彼の作品を5,6作は読んだと思うし(短編を含めれば10を越えるだろう)、これからも読み続けるつもりだけれど、いまだに自分が村上春樹好きだと断言することにはためらいがある。定期的にひどく読みたくなる、という意味では間違いなく好きなのだけど、それでも、よく見かけるような、「村上春樹の作品が大好きなんです」と公言している若い女性達のようにははっきりと宣言できない部分があるのだ。その原因はおそらく、「何故自分が彼の作品を好きなのか」をさっぱり理解できないからだろう。 僕は、小説やら音楽やらのレビューを書いたりしていて、その中では作品における魅力を自分なりに分析し、他の人に伝わる言葉に置き換えるよう努めている。そしてその試みは、いくつかのレビューにおいてはある程度成功し、読者の共感を得ることができているのではないかと自負もしている。にもかかわらず、これだけ「好きなはず」の村上春樹作品の魅力を、僕はうまく伝えることができない。もし僕がどこかで、友人や知人に無邪気な瞳で、「で? 村上春樹ってどこが面白いの?」と尋ねられたとしたらきっと、頭を抱えて黙り込んでしまうことだろう。 それでも何とかして彼について語るとするならば、まず彼の文章は「現在進行形の文章である」ということができると思う。彼の作品は、「読み終える」ことに意味があるような性質のものではない。「読んでいる」ことに意味があるのだ。僕が彼の作品のレビューをあまり書かない理由の一つがそれで、読んでいる途中は彼の作品のことばかりが頭をめぐっているにもかかわらず、読み終えてしまうとそこですっかり満足してしまって、内容を思い返してレビューを書こうという考えに至らないのだ。あえて、作品を読み進めている真っ最中にこの文章を書いているのも、そのためである。 彼の文章の世界に入り込むのに、長い時間はかからない。読み始めて1、2ページもすると、周囲の環境はすべてシャットアウトして、いつの間にか世界に入り込んでしまっている。文章は回りくどい上に飛躍が多いし、何ページもかけて考察した挙句その結果が、「まぁそんなことには何の意味もないのだが」とかだったりする。 よく言われるように、ストーリー展開やモチーフそのものがひどく抽象的で現実離れしているのだが、その割になぜか断片的な思考一つ一つは極めて卑近で、リアリティがある。思考自体はありふれたものであるような気がするのに、その結果であるところの行動がものすごくずれている。なのに主人公はまるで他人事のように自分をとらえている節があって、思わぬ行動を起こす自分と、わけのわからない方向に転がるストーリーにやれやれ、とため息をつくのだ。おそらくは春樹自身をある程度投影していると思われるそんな主人公は、自意識が高すぎるあまり自分を客観的に見てしまうかのように振舞っていると言えるのかもしれないし、それはともすればナルシシズムのあらわれ、自己正当化のようにも見える。だが春樹はそんな批判すらわかっていて、大抵の場合、作品中で主人公は登場人物からそういう意味の批判を受ける。そしてそれに対して主人公がとる行動はあくまでも受身だ。 >「やっぱりあなたには相当問題あるわよ」と笠原メイは言って、ため息をついた。 >「問題はあると思う」と僕は認めた。 >「そんなに何もかも簡単に認めないでよ。自分の過ちを素直に認めて謝ればそれで何もかもがすっきりと解決するっていうものじゃないのよ。認めようが認めまいが、過ちというものは最後まで過ちなのよ」 >「そのとおりだ」と僕は言った。まったくそのとおりなのだ。 (「ねじまき鳥クロニクル」第2部5章より) これはもしかしたら、彼の生き方そのものなのかもしれない。彼自身は自然に穏やかに生きているつもりなのに、何故か目立ってしまう。それゆえに批判も、バッシングも多い。そんな世界に彼は黙ってため息をつき、肩をすくめて見せる。まるで彼はただ巻き込まれているかのようにも見えるが、その実、全てを巻き起こしているのは他ならぬ彼自身なのだ。 気がつけば、無駄に長い文章を書き連ねてしまったが、読み返してみると驚くほどに中身がない。それこそ、村上春樹の文章をリスペクトするがゆえなのだ、などと言い訳をしつつ、彼の作品を今日も読み進めようと思う。 PR |
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